インタビュー
【対談】デンマークに学ぶ「人を育てる」教育デザイン
今回の対談では、北欧・デンマークの教育実践を日本に広める株式会社フィーノリッケ代表 鈴木孝枝氏を迎え、「人を育てる」ことを重視するデンマーク教育の考え方について伺います。
神田女学園グローバル教育研究所では、生徒一人ひとりが主体的に学び、自ら未来を切り拓く力を育む教育を重視しています。
そうした観点から本記事では、デンマークの教育思想を通して、これからの教育の在り方を考察します。
聞き手 川畑浩之(神田女学園グローバル教育研究所 ディレクター)
Guest Profile
鈴木孝枝
株式会社フィーノリッケ
鈴木孝枝
株式会社フィーノリッケ
東京生まれ。素材メーカーやアパレル系商社に勤務し、貿易・営業実務に従事。 2001年、少子高齢化社会への問題意識を背景にデンマークへ渡り、現地の社会福祉や教育、暮らしのあり方に触れる。 帰国後は、医療・福祉分野のシンクタンクや戦略コンサルティング会社で、統計分析、人事・総務マネジメント等に従事。
2007年に独立、2012年にフィーノ株式会社を設立。人事戦略・社会人教育研修を主軸とし、その後北欧の教育思想と日本の現場実践をつなぐ教育事業を本格化し、北欧教育フィーノリッケを創設。
競争一辺倒ではなく「起業家精神」を育む国
川畑浩之(以下、川畑)
1年前(2025年1月)にデンマークを視察しましたが、本当に「人を育てる」「人は国の重要な宝(資源)」という考え方が徹底されていますよね。特に驚いたのが、国立の教育機関や、大手銀行が、高校生のビジネスアイデアを支援するハブになっている点です。
鈴木孝枝氏(以下、鈴木)
そうですね。北欧、とりわけデンマークでは、早い段階から子供や若者の主体性やアントレプレナーシップ(起業家精神)教育を重視しています。国そのものがベンチャー気質のように思えるほどです。
教育機関や企業、地域社会が緩やかにつながりながら、若い世代の挑戦を応援する土壌がある。そうした環境が、結果として新しい発想や行動を生みやすくしているのではないでしょうか。大切なのは、子どもたちを早くから評価や序列の中に置くのではなく、一人ひとりの可能性を社会全体で支えようとする姿勢だと思います。
日本の概念を見直したくなる「多様な進路選択」
川畑
視察を経て、日本の教育の枠組みで考えるとデンマークの教育制度は理解できないと感じました。例えば評価を付けない教育であったり職業による収入格差が小さいとかなど、異なる点も多いですね。
鈴木
デンマークの教育を理解するには、まず「進学して卒業して就職する」という一本線の発想を少し外してみる必要があります。義務教育が終わる数年前に、生徒には「この国で就ける職業」が網羅された1冊のガイドブックが配られます。そこには職業ごとの学びのルートや必要な資格、働き方などが整理されており、子どもたちは自分の関心や適性を手がかりに、自ら進路を選びます。
鈴木
図にあるように、一般的な進学ルートだけでなく、専門性を高める教育機関や実践的な学びの場も充実しています。すぐに進学や就職を決めるのではなく、「ギャップイヤー」を利用して、働く、旅をする、学び直すなど、いったん立ち止まって自分の方向性を考える時間を持つことも、社会的に受け入れられています。成人してから後述する「フォルケホイスコーレ」で学び直したりすることも一般的です。
「対話」の拠点、フォルケホイスコーレとエフタスコーレ
川畑
最近日本でも注目されている「フォルケホイスコーレ」についても詳しく教えてください。高校とは違うのでしょうか?
鈴木
フォルケホイスコーレは、デンマーク発祥の学びの場で、若者や成人が自分や社会との関わりを見つめ直しながら全寮制で学ぶ場として知られています。試験や学位取得はなく、対話や共同生活を通して自分の考えを深めることに重きが置かれています。一方で、中高生年代が通う「エフタスコーレ」も、寮生活を含めた学びの場として、興味関心や発達段階に応じて、自分の進路や生き方を考える時間として10年生と同様、選ばれることがあります。
川畑
「自分で決めて、対話を通して学ぶ」という姿勢が、どのステージにも組み込まれているのですね
ペタゴーが支える「放課後」の質
川畑
デンマークには「塾」がないそうですね。共働きが標準の国で、放課後はどう過ごしているのでしょうか。
鈴木
そこがデンマーク教育の面白いところです。小学校低学年は「SFO」と呼ばれる学童、高学年は「SFOクラブ」と呼ばれる学童の発展版、中高生になると「ウンドムスコーレ」という放課後学校もあり放課後に学びや活動ができる場があります。
ここで重要なのが、教員とは異なる専門職「ペタゴー(Pædagog)」の存在です。
ペダゴーは、子どもたちの生活や遊び、人との関わりを通して、社会性や対話力、関係性を育むことを専門とする職種です。単に見守るのではなく、子どもの興味や関心に寄り添いながら、活動や関係づくりを支えていく。そこに大きな特徴があります。例えば料理や文化教育など、子供の興味関心に合わせた多様な活動をサポートします。
日本初の「フィーノリッケペダゴー®︎」資格認定講座
川畑
ペタゴーの役割は非常に重要ですね。鈴木さんの会社では、このペタゴーの知見を日本に広める活動をされていると伺いました。
鈴木
はい。弊社では、デンマークのペダゴー教育の考え方や実践から学びながら、日本の現場に合う形で独自にカスタマイズした「フィーノリッケペダゴー®︎資格認定講座」を運営しています。これは単なる知識や技術の習得ではなく、「対話」「民主的なプロセス」「人を一人の人間として見る視点」を軸に、参加型ワークショップを通じて、対人支援の在り方そのものを学ぶプログラムです。
川畑
研修では具体的にどのようなことを学ぶのでしょうか。
鈴木
ベーシックコースでは、デンマーク教育における歴史や基礎理論を学ぶだけでなく、現地のペダゴー資格保持者からも直接、民主的プロセスや対話の実践練習を受けます。アドバンスコースではさらに理論と実践の相互作用を深めます。すでに180名以上の受講生が全国で活躍しており、教育現場やご家庭で「子どもへの主体的で対話的な関わり」を実践されています。
日本でも必要とされる「個別最適」な放課後モデル
川畑
まさに今、神田女学園グローバル教育研究所が挑戦しようとしているのが、その「放課後の再定義」です。これまでのように外部の受験塾に依存するばかりではなく、ペタゴーの精神を取り入れた自立的なモデルを作りたい。
鈴木
放課後の再定義、とても大切なテーマですね。具体的にはどのようなイメージですか?
川畑
単なる教科教育の補習や勉強の延長ではなく、生徒の「自己肯定感」や「自己効力感」を高めるプログラムを実践したいのです。
● ハイレベル・キャッチアップ双方の補講
● 教養・探求プログラム(大学連携や専門家の講演)
● 自学自習とカウンセリング
これらを、生徒が自分の課題に合わせて「自ら選んで受ける」スタイルです。まさに「ブレンディッド・ラーニング」や「個別最適学習」の考え方ですね。
鈴木
自分で選択する力は、急に身につくものではなく、日々の経験の中で育っていくものです。その意味でも、放課後に「自分で選ぶ」「試してみる」「対話する」機会があることはとても大きいと思います。
デンマークから学べるのは、何か特別な制度をそのまま持ち込むことではなく、強みや関心を学びの入り口にすること、そして心理的安全性を土台にすることです。
自分の得意なことを起点に学びに入る。興味のあるものを試しながら、自分なりの方法を見つけていく。その積み重ねが、結果的に苦手なこととの向き合い方を見つけることにもつながります。日本で放課後のあり方を考えるうえでも、とても大きなヒントになるのではないでしょうか。
川畑
競争にさらされる社会に出る前に、まずは「自分はこれでいいんだ」という自己肯定感、自己効力感を育てたいのです。そのヒントがデンマークの教育にあるのだと思うのです。放課後の新しい教育モデルを考えていきます。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
-
フィーノリッケペダゴー資格認定講座
https://paedagog-fl.co.jp/ -
北欧教育フィーノリッケ
https://finolykke.jp/ -
フィーノリッケ公式インスタグラム
https://www.instagram.com/finolykke_dk/
■ 鈴木さんの専門領域と主な活動
- 「ペダゴー」の普及: デンマークに学び、日本・デンマークの有資格者たちと共に対話を重視した「フィーノリッケペダゴー®資格認定講座」を開発・運営。
- 接続期教育(SFOmini / 0年生): 幼保小架け橋プログラムとして、デンマークの公教育に取り入れられている「0年生」や、放課後教育「SFOmini」を日本で初めて展開。
■ 主な受賞歴・実績
- WOMAN’S VALUE AWARD 2021:優秀賞
- Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2023 受賞
- 東京都女性経営者アワード2026;ファイナリスト選出
