なぜ「留学」を勧めるのか? ー 石川淳(立教大学環境学部教授)×高橋順子クロストーク(前半)

今回の企画は、組織論やリーダーシップ論で有名な立教大学の石川淳先生とグローバル教育の実践者の高橋順子所長に、中高時代の留学の「意味」を伺います。
神田女学園グローバル教育研究所では「留学」を推奨しています。多くの生徒が、留学経験を糧にして、その後の学校生活を充実させ、進路や自己実現をしています。
聞き手 川畑浩之(神田女学園グローバル教育研究所 ディレクター)
Guest Profile
石川 淳
立教大学 環境学部教授・博士(経営学)
石川 淳
立教大学 環境学部教授・博士(経営学)
リーダーシップと多様性についての研究をしています。価値観や考え方が異なる人が集まり、相互の違いによるコンフリクトを乗り越え、より創造的な成果を生み出すために何が必要なのかを研究しています。とりわけ、多様性が高いグループにおいて、メンバーのそれぞれが自分の強みを活かしたリーダーシップを発揮するために何が必要なのかを明らかにしようとしています。
専門分野
リーダーシップ論、組織行動論、人材マネジメント論
著書
『リーダーシップの理論』中央経済社、2022年
『シェアド・リーダーシップ:チーム全員の影響力が職場を強くする』中央経済社、2016年
留学の意味①
視野を拡げる、コミュニケーション力が高まることで、自己成長を感じ、他者貢献の意識が高まる
川畑 親として、子どもに「できることなら留学を経験させたい」という思いがありますが、改めて中学高校生の時に、留学を経験させる意味はどこにありますか?
高橋

私が思うに、ずばり「視野を拡げること」にあるでしょう。自宅と学校との往復だけではなく、海外の体験は「このような人がいるのだ」「このような食べ物がある」など、いろいろな経験ができます。またコミュニケーション力も上げることができるのだと思います。
石川教授

視野を拡げる、コミュニケーション力をあげる、とても大切なことです。これからの社会では、地域、国内、海外と様々な人たちと結びつきながら仕事をしていく必要がありますね。
「社会を変えていく」ことが大切なことだと思っていて、そのためには、中高時代に一度日本を離れて、外から「日本」を見る機会を持ってほしいのです。
川畑 若者が社会を変えていくことに期待しますね。石川先生は、どのような留学を勧めますか?また高橋先生は留学を経験した、多くの生徒を見てきました。
石川教授

コミュニケーションの基本は英語ですね。だから中学高校の時には、英語圏留学でいいでしょう。まずは留学に慣れるということです。そして大学生になると、今度は非英語圏の留学を勧めますね。
それは、例えば企業がグローバル人材を採用し派遣する先は、英語圏ではなく非英語圏が多いのですよ。理由はアメリカやヨーロッパは金額的に、(費用が)高く、現地雇用になります。だから、派遣先は非英語圏、今後発展するだろうアジアや南米ですね。
高橋

英語力を上げるという点では、留学をすることで驚くほど英語力は上がります。英語力に限らないかもしれない。もともと、あまり(日本語でも)コミュニケーション力の高くない生徒が、留学を経験して「私の英語が通じた」というような自信を得て、帰国すると、帰国後の生徒はとても明るくなり充実した学校生活を送ることが多い。そして、入学した時の学力以上の、いわゆる難関大学に進学するというケースをみています。これは、留学の成果とも言えるでしょう。

留学の意味②
言語を学ぶことは文化を学ぶことであり、文化を知ることは、これからの社会で求められる言動ができる人材になれる
川畑 コミュニケーション力という点では英語力を上げることは当然大切ですね。一方、第二外国語を必要性はいかがですか?非英語圏に行くとなると、現地言語の習得はいかがですか。
高橋

私が校長であった、神田女学園中学校高等学校(千代田区)では、2006年中国語、2011年韓国語、そして 2018年からフランス語を学ぶカリキュラムを実践しています。話を聞いてみると、韓国語が人気あり、最近はフランス語のニーズが増えています。
日本でフランス語を教えている学校は日仏高等学校ネットワーク COLIBRI(コリブリ)という教育団体に加盟していることが多いのですが、神田女学園も 2025年に加盟しています。
石川教授

そうですか。立教大学では第一外国語は英語で、第二外国語は必修にしています。ただ、「第二外国語を必修にする意味はあるのか」という議論もあります。社会に出て、フランス語やスペイン語を話す機会はあまりなくて、みなさん英語で話すのですよ。ビジネスをやるレベルまではなかなかマスターできない。
でも第二外国語を必修にしている最大の理由は、つまり言語を学ぶことの裏には文化を学ぶこと」だと思うのです。
高橋

私もそう思います。言語を学ぶことは文化を学ぶという考え方は大切です。私は言語を学ぶことで人生を切り拓くことができます。
石川教授

「組織論」の専門用語になりますが、「Organizational Citizenship Behavior」という用語があります。簡単に言うと「自分の役割ではないけれども、組織のためになるならやる」という意味で、「組織市民行動」と訳します。
欧米の人たちが使う「市民:シチズン」という表現は、日本でいうところの「〇〇市に住んでいる人」以上の意味があり、日本人の感覚とは異なります。 そのため日本人は「組織市民行動」と聞いてもピンとこない。主に欧米、現地に行くことで、どのような状況で、人々がその言葉を使うのか、単なる「市民」ではないのだと、初めてわかるのです。
だから留学で、その土地で生活をすると、文化(価値観)を肌感覚で感じることができ、この感覚がいろいろな場面で活きてくるのです。