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デンマークの中等教育レポート(後編)

デンマークの教育の特徴を踏まえながら、近年注目されている非公式の教育機関のエフタスコーレについて紹介します。

前編はこちら

 生徒の自己探求や自己成長に重きを置いたエフタスコーレ(Efterskole)やフォルケホイスコーレ(Folkehøjskole)という非公式な全寮制の教育機関があることもデンマークの教育の特徴の一つである。多くの生徒は9年間の義務教育後は高校に進学するが、1年間ほどエフタスコーレという生徒の自己成長や自主性が尊重されながら個々の能力と学力も伸ばす学校に行くことを選ぶこともできる。対象は14歳から18歳で、国語、数学などの基礎的な学習に加えて、自分の関心のある分野(スポーツ、音楽、アートやデザイン、農業など)の特長を持つ学校を選び、異なる地域から集まった新しい仲間との共同生活となる。学校法人が運営し、3分の2は政府、残りの3分の1は保護者負担によって運営費がまかなわれている。エフタスコーレには長い伝統があり、最初の学校は1851年に設立された。地方の農家の子弟を対象に当時の小学校教育補足もしくは公立最終試験の準備教育を施すことを目的として提供されていた。同時に、17歳以上を対象とした成人の非公式な教育機関であるフォルケホイスコーレの伝統の重要な側面である、生涯にわたる学び、自己成長、社会とのかかわり、などを学ぶといった特徴を継続してきた。エフタスコーレは全国に広がり、現在ではおよそ240校、約3万人の生徒が在籍している。特別なニーズのある生徒のための学校もあり、ディスレクシアや自閉症スペクトラム、ADHD、全般的な発達障害といった障害や特性に応じたプログラムを提供している学校もある。

 学校の規模は小さく、生徒と生徒同士、生徒と教員が密接な関係を築いている。例えば、公立の学校では自分の強みや興味に関連のある活動に十分取り組む時間やチャンスがなかったとか、仲間作りがうまくいかなかったとか、学業成績が振るわなかったとか、もっと自分自身を成長させたいといった理由でエフタスコーレを選択する生徒が多い。全寮制のため、生徒は2人から4人の部屋を共有し衣食住を共にする。部屋の掃除、食事の配膳片づけなどを生徒達が分担して担っており、これまで家庭でそのような経験をしてこなかった生徒にとっては、共同生活やコミュニティを形成する上での気づき、他者への理解や寛容性、それに伴った適切な行動を身につける場になっている。

 この学校の教員は必ずしも教員免許が必須ではなく、その分野に特化した知識や経験、職歴(例えば元スポーツ選手、プロの音楽家など)をもった人が採用される。教師としてだけでなく時に友人のように時に年長者のように時に家族のように生徒との信頼関係を築き、思春期の子ども達の自己成長のファシリテーターとしての役割に関心があることが必須である。

 エフタスコーレ協会によると、エフタスコーレを卒業した生徒はより進路に対する目的意識が強く、学業成績が高く、高校のドロップアウトが少ないなどの傾向があるという。(この理由としてエフタスコーレでの経験が影響しているのか、それともそもそもそういった傾向の生徒や目的意識の高い家庭の子ども達がエフタスコーレを選択しているからなのかは不明。)また、保護者の多くが子どもの人間的成長、学力の向上を実感していると回答したという。

 ここまで読むと、デンマークの子ども達が楽しく学校生活を送り、自律的に学び成長している様子を想像し、彼らには様々な可能性や豊かなリソースがあると思われるかもしれない。しかし、脆弱なメンタルヘルス、低いモチベーション、インクルーシブ教育の弊害、若者のドロップアウトなど日本とは異なるもしくは類似の課題は多々あり彼らもまた子ども達のよりよい学びと成長を目指し議論、模索している。


参照

エフタスコーレ協会
https://www.efterskolerne.dk/

Author / 海野 あゆみ
北欧担当(Educational Visits Denmark 代表)

長年研究者として、神経発達症といった学び方や物事の捉え方などにおいてマイノリティであるため学校や社会生活で困り感のある子どもの支援や環境の在り方に関する研究に取り組むとともに、本人達や家族へのサポートに携わってきた。 デンマークコペンハーゲン大学での研究職そして視察コーディネートで様々な専門分野の現場に足を運んだ経験から、教育や社会システムが市民の態度や認識、価値観とどのような関係性であるのかを考えるようになる。 現在はデンマークで起業し、北欧と海外の間での様々なプロジェクト(視察、国際イベント、現地調査、教育プログラムなど)を手掛けている。