海外視察
デンマークの教育制度とその実際
【第1回】デンマークの教育制度と概要
デンマークでは多くの子どもは6歳になる年に就学し幼稚園クラス(別名0年生)を開始する。この幼稚園クラスの一年は子ども達が徐々に学校生活に慣れる移行期間として捉えられ、数字と文字に慣れる、話を聞いて語り直す、書き方、といった学習の基本をクリエイティブな活動、郊外活動、身体活動、グループ活動などを通して学ぶこととなっている。ここで主な指導を担当するのは教員ではなく、教育・福祉の専門資格をもつペタゴー(Pædagog)である。ペタゴーは、保育施設や学校、放課後施設、障害児支援等の現場で子どもや青年たちと日常を共にしながら、彼らの対人面、社会性、コミュニケーションといった”人の成長・発達”を支える専門職である。
就学において、子どもの様々な側面の発達や成熟の様子、環境等を鑑みて保護者や幼稚園との話し合いでもう1年幼稚園で過ごすことを選択することもある。逆に、その子どもの成長が十分学校教育についていくことができると保護者や幼稚園、そして学校が同意した場合、通常より早く就学を開始することも稀にあり、同じ学年でも年齢が一年以上違うことは珍しくない。家庭の居住地区に応じて学区および学校の候補が決まるが、空きがあれば校区外の学校を選択する自由があるし、私立学校を選択する保護者も多い(全体の約15%)。デンマークには様々なタイプの私立学校がある。小規模私立学校(friskoler)、大規模私立学校(privatskoler)、宗教系の私立学校、進歩的なフリースクール、特定の教育目的をもつ学校(例:ルドルフ・シュタイナー)、少数民族系私立学校、移民の為の学校などに分類できるが、共通している特徴は、学校は自主的にそして学校法人および私立学校に関する法律の枠組みの中で運営され、保護者が積極的に学校に関わることである。学費は学校やエリアによって大きく異なるが、一人あたり月額約1,250-2,500デンマーククローネ※1(27,000-54,000円程度、2025年4月現在)となっている。
学校は8時頃から始まり低学年だと昼過ぎ頃には終わり、殆どの子どもは校内もしくは付近の放課後施設で過ごす。(学校教育は無料であるが、この放課後施設は保護者の所得に応じて利用料を支払う必要がある。)デンマークの学校は初等教育(1年生から6年生)と前期中等教育(7年生から9年生)の両方が連続して網羅され、試験はほぼ全ての学年で春にデンマーク語もしくは数学もしくは英語もしくは物理/化学のオンラインテストが行われ、8年生および9年生時に標準テスト、その後最終卒業試験(口頭・筆記)が必須となっている。
公立学校(Folkeskole:国民学校)の目的※2として、生徒の進学や社会参加に備えて、学習の動機、他国や多文化への理解、自然と人間の相互作用の理解、主体性と参加、創造性、平等(生徒の社会的・民族的背景の影響を最小限にする)や民主主義の理解と態度を個々の生徒の多面的な発達を促進しながら成長させることといったことが謳われている。これに加えて各自治体は児童青少年の成長・発達・学習における未来戦略としてさらに、すべての生徒が成長できる充実した学校生活を送る(ウェルビーイング)、保護者にとって信頼でき魅力的で質の高い公立学校を目指す、ことも掲げられている。
デンマークの教育者に共通理解としてDannelse(≒formation≒形成)という概念があり、それは下記で説明できる。
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教育とは、文化を通じて人間性を高めること
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世界における一人間として自己そして世界における自分の責任や努力について理解すること、そして教育はその根底にあるものを示さなければならない
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教えることは広い意味をもち、単に知識を伝えることだけではない
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教えることは生徒をより大きな世界へと導き、ひいてはより大きな自己理解へと導く
これを達成する指導形態として、生徒同士や教師との交流の中で共に探求し、実験し、傾聴し、歌い、対話し、感じ、好奇心をもち、共に学び共に教えられその一体感には大きな形成的意義があると考えられている。
さらに、Myndighed(≒Authority≒自立・権限)という教育的価値感も存在し、生徒達は年齢が上がるにつれこの力がより求められるようになる。
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学業面だけでなく心理的にも自立し、自身の人生と成長における自由と選択と責任を理解し身につける
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複雑な学術的課題を主体的に調査・分析・考察・議論する方法を学ぶ
これら教育制度や教育目標は、子どもの成長や学び、社会参加に対する国のねらいだけでなく社会や人々の価値観や哲学的思想も大きく影響しており、次項ではそれらについて教育現場の実際や実践をあげながら説明することとする。
文献
1) Life in Denmark.dk. School and education
https://lifeindenmark.borger.dk/school-and-education
2) Ministry of Children and Education. The Folkeskole
https://eng.uvm.dk/primary-and-lower-secondary-education/the-folkeskole