海外教育の情報発信 ストーリー

vol.8
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ストーリー

ケイ君の高校留学体験 ~ホストファミリーとの向き合い方が成長をつくる〜

 ケイ君との出会いは、高校2年生のときでした。学校のプログラムを通じて、彼はアメリカ・オレゴン州の高校に1年間留学することになりました。通学片道1時間半の日々から解放され、「留学できるなら!」と大きな期待を胸に渡航しました。日本では家の手伝いもほとんどせず、自由な生活を送っていたケイ君にとって、初めての海外生活は胸が高鳴る経験でした。

 現地で迎えてくれたのは、温かいホストファミリーでした。「新しい家族が来るのを楽しみにしていたのよ」という言葉に安心し、学校でもすぐに友達ができ、賑やかで楽しい毎日が始まりました。

 ところが、留学生活は順風満帆ではありませんでした。思いがけず直面した壁がありました。それは、家の手伝いの多さです。ある日、ホストファザーからこう声をかけられました。

「冬に備えて、森で木を切って薪を作るんだ。ケイも一緒に行こう」

 ケイ君は心の中で叫びました。「えっ、嘘でしょう!?現代社会で森で薪づくり!?」日本では経験したことのない家事や労働に驚き、思わず「やりたくありません」と口にしてしまいました。しかしファザーは静かに言いました。

「うちの息子たちはみんなやってきた。ケイも家族の一員だから、一緒にやるんだ」

 週末、重い斧を振り続ける生活が続き、次第に体力も心も限界に近づきました。
 ある朝、ついに学校へ行けず、泣き崩れてしまったケイ君。彼の様子を見たホストマザーは抱きしめ、ファザーも肩を抱き寄せてこう言いました。

「つらかったね。気づいてあげられなくてごめん」

 この出来事をきっかけに、ケイ君とホストファミリーはお互いをより深く理解し合い、家族の絆は一層強まりました。ケイ君自身も、「気持ちは言葉にしなければ伝わらない」というアメリカの価値観を実感し、自分の成長にとって大きな一歩となりました。

 留学では、このように壁に直面することで、子どもは大きく成長します。ケイ君の経験からもわかるように、留学は楽しい経験だけではなく、自分の限界に挑み、価値観を広げ、精神的な強さを養う“人生の訓練”です。辛い経験や悩みも、将来の判断力や柔軟性、そして自分の可能性を広げる力につながります。

 私は生徒にいつもこう伝えています。「ピンチはチャンス。逃げずに向き合うことで、人は一回りも二回りも成長する」

 ケイ君もまさにこの経験を経て、全米トップのリベラルアーツ大学へ進学しました。大学ではクラウドファンディングを活用してクラブを立ち上げ、卒業後はグローバル企業で重要なポジションに就き、さらに自身の起業にも挑戦しています。ケイ君自身が語るように、「日本にいたままだったら、この成長はなかった」とのことです。

 高校留学は、単なる海外体験ではなく、人生を大きく変える選択です。勇気をもって一歩を踏み出すことで、未来は確実に変わり始めます。

Author / 西澤 めぐみ
主任研究員(海外留学・進学コンサルタント)

16歳から単身で渡米、ブリガムヤング大学卒業。イエール大学、デューク大学を含む全米7大学で学ぶ。執筆、講演、教育コンサルティング、留学サポートに35年以上携わり、高校生の相談実績は1万人を超える。キャリア・コンサルタント、産業カウンセラー、認定コーチ資格を持ち、”キャリアにつながる海外進学”を提唱している。