グローバル研究

海外視察

デンマークの中等教育レポート(前編)

デンマークの教育の特徴を踏まえながら、近年注目されている非公式の教育機関のエフタスコーレについて紹介します。

 目立ったデンマークの教育の特徴は既に日本でも広く取り上げられているが、国の規模や社会の価値観などが異なる二つを安易に比較しどちらが優れているかという話は、評価が難しい教育という分野においては特段慎重になる必要がある。子どもや若者に適用される制度や取り巻く社会構造の側面、そして彼らの心理的・行動的特徴などと共に多面的に分析したり議論したりすることはできるが、因果関係を直線的に解釈したり他国で単純に取り入れたりすることはできない。

 緊張感、厳しい練習、我慢強さといった日本では“ちゃんとした大人”になる為に子どもに経験させた方がよいと思われているこれらのことをデンマークでの人々は望まないし、それを正当化する意味づけやエビデンスがある。例えばデンマークの学校教育の特徴の一つとしてテストが少ない。子ども達の学業成績をみるために特定の評価基準を使って比較競争させ、プレッシャーを与えることで彼らのウェルビーイングが損なわれることを懸念していることが理由の一つである。学校や教育者が生徒の社会的側面の成長を促すことや学習環境を整えることにフォーカスすることで、生徒のウェルビーイングが向上し、ひいては学業成績にも好影響だと示されているからである。昨今では生徒のパフォーマンスは総合的で質的に評価されるべきだという議論も教員団体の中であり、今後は現在の限られた教科の試験、そしてその方法や形式自体も改善される必要があると指摘されている。

 二つ目は学校やクラス内の規則が少なく、教員が一方的に生徒に指示命令する場面をみることは稀である。デンマークの学校現場の子ども達や先生達の様子は日本のそれと比べるとかなりリラックスして自由な雰囲気がある。デンマークの教育は、子どものモチベーションや主体性、民主的態度や社会性を育むことを重視している。民主的態度とは、自身や周囲の様々な事柄に関心をもち、それらを分析的に捉え自分の考えやその裏にある哲学をもち、異なる主張や立場を尊重した上で、対話を通して一人ひとりにとってよりよい着地点をみつける過程を踏む力、と説明できる。これを子どものうちから練習する場の一つが学校であり、彼らは自己実現のための自由と権利、社会を改善するための共同責任をもっていることを学ぶのである。デンマークではこの『学ぶことを学び、生きることを学ぶ』、『人生において正解のない問いを問い続ける』態度が大事だという共通価値観があり、答え合わせやジャッジをしないデンマークの教育者の態度とも紐づけられている。子ども達に画一的なルールを守らせるのではなく、彼らが自分達で考え、自由に創造し、選択からの結果を引き受け、再構築する、そのダイナミックな学びの権利と余白が子ども達や若者に与えられている。

Author / 海野 あゆみ
北欧担当(Educational Visits Denmark 代表)

長年研究者として、神経発達症といった学び方や物事の捉え方などにおいてマイノリティであるため学校や社会生活で困り感のある子どもの支援や環境の在り方に関する研究に取り組むとともに、本人達や家族へのサポートに携わってきた。 デンマークコペンハーゲン大学での研究職そして視察コーディネートで様々な専門分野の現場に足を運んだ経験から、教育や社会システムが市民の態度や認識、価値観とどのような関係性であるのかを考えるようになる。 現在はデンマークで起業し、北欧と海外の間での様々なプロジェクト(視察、国際イベント、現地調査、教育プログラムなど)を手掛けている。